「美味しいから食べたい」と思われる味へ
サシが細かく、脂のうまみが濃い「仙台牛」。厳しい審査基準をクリアした牛だけが「仙台牛」として世に出るため、全体的に品質が安定しているとされる。また、米どころ宮城ならではの飼料として、100%宮城県産の稲わらや、飼料用米を与えていることも大きな特徴だ。今回は「素牛」と呼ばれる子牛を宮城生まれに限定するなど、珍しい取り組みに注目が集まる「JA古川肉牛部会」を取材。さまざまな取り組みについて話を伺った。
取材に応じてくれたのは、取材場所を提供してくれた、仙台牛生産者の高橋さちさんと、息子の高橋勇太さん。「仙台牛銘柄推進協議会」副会長および「JA古川肉牛部会」部会長を務める千葉孝幸さん。そして仙台牛の若手組織「仙台牛レボリューションズ」の代表を務める鈴木佑哉さんだ。
高橋勇太さん「仙台牛は自宅でも食べますよ。我が家で夏に多いのは、冷しゃぶ。ポン酢と柚子胡椒であっさり食べます。ビーフシチューも美味しいですよ。つくるのは母ですけどね」
高橋さちさん「子牛には、牝はひらがな、牡は漢字で名前をつけて登録する決まりがあります。ブラッシングが好きな子、呼ぶと来る子、それぞれ個性があって可愛いんですよ」
鈴木佑哉さん「牛の世話の合間に、市場に行って、自分が出荷した牛の枝肉をチェックします。サシの状態、身質の状態などを確認して、肥育の改善の参考にしています」
千葉孝幸さん「うちと鈴木さんは、米もやっているので、田植えや収穫の時期は大変ですね。でも自前の稲わらを牛にあげられるので、いい循環農業ができているかと思います」
仙台牛を肥育する上で特に気をつけていることを訊いた。最初に答えてくれたのは鈴木さん。「自分の場合は、朝起きて牛舎に行ってから、夜自宅に引き上げるまで、牛の様子を何度も見ることでしょうか。牛は暑さに弱いので、特に夏場はよく観察します。ちゃんと立てるか、餌を食べているか、水を飲んでいるか。コンディションを見ながら、餌の量を調整するなど、気を配っていますね」。千葉さんが頷く。「仙台牛の肥育は繊細な調整が必要なんです。美味しく安全な肉牛に育てるために、体調の変化を細かくチェックしています」。高橋さちさんが続ける。「うちは父と兄と息子が肥育担当、私が繁殖を担当しています。繁殖は出産時の緊張感がとても大きいです。自然に生まれてくれれば楽ですが、時には子牛を引っ張らないといけない時があるんですよ。生産者仲間に手伝ってもらいながら、一晩中付き添う場合もあります」。一番若い勇太さんは「農業の大学で畜産について勉強して、改めて興味を持って実家で就農しましたが、まだわからないことも多いですね。千葉さんにいろいろ指導してもらいながら、牛との付き合い方、仲卸業者さん、小売店さんなどとの付き合い方などを勉強中です」と笑顔で話す。
「JA古川肉牛部会」ならではの取り組みとして、「素牛」を宮城県産に限定する、というものがある。「素牛」とは、肥育が始まる前の子牛のこと。仙台牛の生産者の多くが、繁殖農家で10ヵ月間育てられた子牛を買い付け、自らのもとで20ヵ月肥育している。「JA古川肉牛部会」では、宮城県内で生まれた「素牛」のみを買い付けて肥育し、「宮城生まれ宮城育ちの仙台牛」として出荷。新たなブランドとして、注目を集めている。また近年では、風味とうまみの向上を目的に、出荷6ヵ月前から、飼育用米を牛に与え、付加価値をつけた販売に取り組んでいるという。
若手を中心とした革新的な取り組みは、味や品質の向上のほか、知名度向上の面にも及ぶ。仙台牛の若手生産者グループ「仙台牛レボリューションズ」、通称「仙レボ」の結成だ。主な活動は、東京で仙台牛をバーベキューで振舞うなどし、「仙台牛」の魅力を広めるPR活動を行っている。また、定期的に集まり、活発に情報を交換。若い担い手が元気に活動する姿は、「高級」のイメージが大きかった「仙台牛」に、「活気」「身近」といった新たなイメージを付加させている。そして、こうした活動が実を結び、近年では県外からも「生産者の指名買い」が増えてきたという。鈴木さんもその一人だ。
「ありがたいことですが、同時に、緊張感もありますね。遠方からわざわざ牛を視察に来る飲食店の方もいます。間違いないものをお届けしなくちゃと、毎日緊張感を持って牛を育てています」
現在、新型コロナウイルスの影響により、大きなダメージを受けている「仙台牛」。しかし、生産者のみなさんからは力強いメッセージをいただいた。「仙台には牛タンという名物がありますが、宮城育ちの和牛の美味しさも、これからぜひ知ってもらいたい、広めていきたいですね。神戸、松阪に負けない牛を目指しています。『特別なものだから特別な時に食べたい』よりも、『美味しいから食べたい』と思ってもらえるように、頑張ります。みなさん、我々が大切に育てた『仙台牛』、食べてみてくださいね」